ですから、やはり、発症したら、要は自覚症状がでたら、すぐに医者に行き薬を処方してもらうべきなのです。
しかし、進んでしまったら、症状別に次のような手術が用意されています。
1.程度の軽い内痔に行う、切らない治療法〜入院不要
注射療法、輪ゴム療法、内視鏡治療などがあり、病院によりますが、
強力な注射療法(ジオン療法)を行える病院もあります。
2.外痔、程度の軽い内痔+外痔 切除が必要〜入院不要
日帰り手術で済みます。
3.程度の重い内痔(脱肛/不完全直腸脱)〜数日間の入院
イタリアで開発された手術で、PPHという専門的で特殊な器具を使う方法です。
4.程度の重い内痔+外痔〜10日から2週間の入院
痔核根治手術が必要です。
5.程度の軽い切れ痔〜入院不要
LSIS法という手術になります
6.肛門が狭くなった重い切れ痔〜10日程度の入院
SSG法という手術になります。
7.後ろ側の浅い痔ろう〜数日間の入院
開放手術、セトン法が施術されます。
8.横や前の痔ろう、複雑な痔ろう〜2週間以上の入院
括約筋温存手術という肛門科では最も技術を要する手術になります。
注射療法、ジオン療法、輪ゴム療法、内視鏡治療
1.注射療法
痔の注射療法(硬化療法)は、痔核に刺激性の薬品を注射して炎症を誘起することで痔核を消滅させる治療法です。
内痔(痔核、いぼ痔、経度脱肛)が対象で、他の痔(外痔、内外痔核、硬くなった痔核、高度脱肛、切れ痔、痔ろう)は適応ではありません。
比較的、歴史の古い治療法でさまざまな薬品が経験的に使用されてきました。注射は痛覚の無い粘膜の部分におこないます。
肛門の皮膚の部分は敏感ですので注射はできません。
この方法は、麻酔も入院も不要で、非常に簡単におこなえる治療なのですが、数年で再発しやすいのが欠点です。
また出血を止める効果は高いのですが、痔核そのものを消滅させる効果は弱く、脱出の強い痔(脱肛)には効果が弱いです。
脱肛には下の輪ゴム療法や手術の方がよいでしょう。
最近は「脱出の強い痔(脱肛)」にも効果がある、より強力な注射療法=「ジオン」が開発され専門医により導入されています。
2.ジオン療法
注射療法ですが、成分が違います。日本で普通に使われる「注射」の成分は「フェノールアーモンド油」です。ジオンでの成分は硫酸アルミニウムカリウム、タンニン酸です。ジオンは成分が異なる、いわば、より強力な注射療法です。
手術の効果がかなり高いことが検証されており、
日本の治験では、94%の症例で痔の脱出が消失しました。
3.輪ゴム療法
輪ゴム療法は「マックギブニー法」といいます。もともと痔の外来治療を目的に開発されました。
特殊な筒状の器具を使い内痔を輪ゴムで縛ります。内痔(痔核、いぼ痔、経度脱肛)が対象で、
他の痔(外痔、内外痔核、硬くなった痔核、高度脱肛、切れ痔、痔ろう)は適応ではありません。
内痔の部分(粘膜部)には神経がありませんので、輪ゴムで縛っても痛みがないのです。
数日しますと縛られた痔核は壊死し脱落します。したがって手術による切除と近い効果があります。通常、麻酔は不要ですが、軽い麻酔を使うこともあります。
外来で可能です。手術後の痛みや出血も非常に小さなものです。術後の安静も2〜3日もとれば十分です。
脱出する粘膜のたるみを縛りこみますので、「脱出の強い痔」にも効果があります(同じ非手術治療である、注射療法よりも大きな効果があります)
しかし通常の手術に比べますと、数年しますと再発し易い傾向があります。「ある程度の再発率を納得して、簡単に治療をすましたい」という治療です。
4.内視鏡治療
内視鏡を使って痔核の輪ゴム療法をおこなうことができます。
基本的に適応、効果、再発率は輪ゴム療法と全く同じですが、内視鏡を使うと通常の輪ゴム療法よりも視界がよいため、より短時間で終わります。内痔(痔核、いぼ痔、経度脱肛)が対象で、他の痔(外痔、内外痔核、硬くなった痔核、高度脱肛、切れ痔、痔ろう)は適応ではありません。
痔の日帰り手術
「日帰り手術」とは文字どおり入院しないで外来でおこなう手術です。
手術である以上、入院の上受けられるのが最も快適であることは間違いありません。
しかし、主に患者の経済的理由により、「少々のことは我慢するから仕事を休まずに治したい」とのことで、
若い人を中心に日帰り手術を希望される人が増えているようです。
日帰り手術は原則として程度の軽い病気を対象にしています。
外痔は出血の危険も少なく、傷が肛門の表側だけの浅い傷ですので日帰り手術のよい適応対象です。
内外痔核(内痔+外痔)は1〜2個だけなら術後の痛みも小さいので、日帰り手術が可能です。
しかし3個以上にななると術後の痛み、出血の管理のため入院した方がよいとされます。
どうしても入院したくないという場合は2回以上に分割して日帰り手術をおこなうこともありますが。保険の問題などもあり、一般的ではありません。
切れ痔は日帰り手術(LSIS)のよい適応ですが、こじらせて「肛門がせまい」状態になりますと日帰り手術は困難です。
痔ろうは原則として浅いもの意外は日帰り手術は困難です。輪ゴムを使うセトン法は日帰りで行われます。
PPH法
PPH法というのは1993年、イタリアで開発された新しい痔の手術法です。
従来の手を使って痔を切除する手術(痔核根治手術)と異なり、特殊な専用の機械を使い、機械で切除、縫合をおこないます。
最大の特徴は肛門の中(内痔の部分)でのみの操作となるため術後の痛みが少ないということです。
肛門は皮膚の部分は非常に敏感なのですが肛門の中(内痔の部分)には痛覚神経はありません。
通常の手術では手術の傷が肛門の中と皮膚の療法にできます。そして肛門皮膚にできた傷が術後の痛みの原因となります。
PPHでは肛門皮膚には傷ができませんから術後の肛門がきれいで、術後の痛みが非常に小さいのです。
痔核根治手術
別名「結さつ切除術」といいます。文字通り、痔核を切除して結さつ(糸で縫う)手術です。通常、ひどい脱肛は3個できることが多く3個同時に切除します。
3個切除の場合でも手術は馴れた医師なら、15分位でおわります。 傷は溶ける糸で縫いますので、抜糸は不要です。縫い方は半分だけ縫う方法(半閉鎖といいます)が一般的ですが、完全に縫う場合や、ほとんど縫わない場合もあります(傷に加わるテンションなどをみて適宜、使い分けます)
LSIS法
切れ痔はせまい肛門を硬い便が通過するために肛門がさけるのが原因です。
したがって便を柔らかくする薬やニトロ軟膏(肛門括約筋を弛緩させる作用がある)が有効です。
「肛門が少しせまめ」位なら下剤とニトロ軟膏で、よくなります。
しかしニトロ軟膏は使っていると頭痛をおこすことがあります。またずっと薬を使いつづけるのもわずらわしいと感じましたらLSIS法がおすすめです。
これは肛門括約筋に「ほんの少しだけ」メスで切れ目をいれる手術です。非常に簡単な手術であり、実質、1分で終了します。
入院は不要です。 これでせまめの肛門が1〜2割ほど広がり「人並み」になるわけです。
切りすぎると逆に肛門がゆるくなりますので「ほどほど」にすることが大事です。
肛門が広がるため太めの便を排便できるため、手術の翌日から快便感が回復します。
ただし「肛門が指も入らないくらい狭くなっている」ようならLSISでは無理で入院の上、
SSG法(皮弁を使って広くする手術)をおこなう必要があります。
SSG法
SSG法というのは重症の切れ痔、肛門狭窄(狭くなること)に対しておこなわれる手術です。軽症の患者にははLSISという外来手術が有効です。
切れ痔は最初のうちは本当の「切り傷」なのですが、何年にもわたり「切れたり治ったり」を繰り返しますと、深い潰瘍となり、硬く瘢痕化します。
そうすると、やがて排便に支障をきたすほどに狭くなります。患者さんは激痛に耐えながら、時間をかけて、狭い肛門から細い便を搾り出します。
「毎日、トイレが地獄の苦しみだった」という患者さんもSSG法をうけると、肛門が広がるため太めの便を排便できるため、手術の翌日から快便感が回復します。
手術は狭くなった肛門管に外側の皮膚の一部を移動(皮弁移動術)させることで肛門を広く形成します。手術は通常は入院が必要です。技術的に難しいのは拡張の加減です。ひろげすぎると術後、肛門がゆるくなりますし、拡張が不十分ですと、術後、早期に再発することになります。
開放手術、セトン法
再発の少ない方法です。
括約筋温存手術に比べると、シンプルで再発の危険がほとんど無いことが特長です。
特に後方の浅い痔ろうは括約筋を切りましてもほとんど問題が無いため、開放手術をおこなうのが普通です。
通常に開放手術をおこなうと傷がおおきくなりすぎる時は、輪ゴムを使ってゆっくり時間をかけて「開放」します。これをセトン法といいます。これは外来でも可能です。
適応を正しくおこなえば非常にきれいな手術といわれています。
昔は痔ろうの手術は全て「開放手術」だったのです。とにかく、痔ろうを治すことが優先され、手術後の機能までは重視されなかったからです。
「痔の手術をすると肛門がゆるくなる」という評判はこのころの痔ろうの手術が原因です。
括約筋温存手術との使い分けとして、付け加えておきます。
痔ろうは1型から4型があります。浅い1型は通常開放手術がおこなわれます。また2型は後ろにある場合や、浅い場合は開放手術がおこなわれます。深い2型、前、横の2型、3型、4型は開放手術をおこなうと肛門機能の低下が大きいため、通常は括約筋温存手術がおこなわれます。しかし、再発をくりかえし、温存手術が困難な場合は開放手術がおこなわれます。
括約筋温存手術
括約筋を切らない手術が開発されています。
痔ろうの手術で括約筋を切らずにおこなう手術を「括約筋温存手術」といいます。別名、くりぬき法ともいいます。
原則として深部痔ろうや、前、横の痔ろうは括約筋温存手術をおこないます。
痔ろうは、肛門括約筋よりも深い層にできます。従って括約筋を切ることなく痔ろうのみを切除するにはトンネルを掘るように病巣をくりぬかなければなりません。
これが「くりぬき法」の名の由来です。
これは、技術を要する手術です。
もちろん括約筋を切らなければ手術後、肛門がゆるくなる心配が無いのでよいのですが、括約筋温存手術は技術的に難しく、その手技の性質上、病巣が一部、残る、つまり再発する可能性があります。約数%の再発率があるのです。
深部痔ろうや、前、横の痔ろうでは括約筋を切りますと術後の後遺症が大きいため、再発の危険があっても括約筋温存手術をおこなうのが最近の主流です。
括約筋温存手術は肛門科でおこなう手術で最も技術を必要とします。手術時間も通常のイボ痔の倍以上、かかります。入院期間も最低で2週間、深部複雑痔ろうでは1ヶ月近く、必要なこともあります。日帰り手術は無理です。手術した部分を保護するために、術後、数日間、食事止め、や排便を止める薬の服用も必要となります。
括約筋温存手術の成否は手術医の経験、技術によって大きく変わります。深部複雑痔ろうや、前、横の痔ろうは痔ろうの手術の経験豊富な肛門専門医を訪ねたほうがよいでしょう。